新聞のデザイン

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アムステルダムの話題に特化した日刊紙Het Paroolが、2年連続で世界のベスト新聞賞を受賞した。これは、毎年アメリカの「ニュースデザイン協会」がデザイン性に優れた新聞に与えている賞で、同紙の知的なタイポグラフィと明快な情報の階層化を高く評価。今年は、ドイツのDie ZeitとアメリカのThe New York Timesと並んで選出された。

この快進撃の立役者は、2016年にHet Parool紙のリニューアルデザインを手がけたポーランド人デザイナー、Jacek Utko (ジャチェック・ウツコ)。ワルシャワに拠点を置く新聞デザインのエキスパートで、世界各国の新聞を手がけている。

アムステルダムの新聞が果たしたこの素晴らしい快挙、早速PENの巻頭ニュースで記事にしなきゃ!(4月15日発売号に掲載)ということでウツコさんにコンタクトをとると、「明後日からアムス出張だから会おう」という親切なお返事。超タイトスケジュールの中、ポーランドへの帰国前空港までの電車の中でお話を聞いた。

・・・・ウツコさん、まずは教えてください、新聞のデザインって一体何ですか?

新聞のデザインとは、コンテンツのデザインのこと

 

 

 


「単刀直入にいえば、コンテンツをデザインすること」。
厳格に一貫性を保ちながらも、豊富なバリエーションのある紙面展開が求められる新聞デザインでは、種類も重要度も全く異なる多数の要素を明快に階層化していくための、高度なオーガナイズ能力が必要だと言う。ほぼ全コンテンツが文字主体であるため、タイポグラフィのエキスパートである必要もある。加えて、全ての方向性が決まると彼がモックアップを制作するが、それを日々の紙面に落とし込んでいくのは、各紙のハウスデザイナー。国も文化も異なる彼らと、うまく意思疎通するための高いコミュニケーション能力もまた、不可欠なスキルのひとつらしい。聞けば聞くほど、あらゆる面において、感性重視のビジュアルを創造するデザイナーとは異なる仕事であることがわかる。大学では建築を学んだという彼の構築的な思考は、この特殊な仕事には向いていたらしい。

「新聞業界は、世界中どこをみても極めて厳しい状況。僕のクライアントたちも皆新しい読者の獲得に必死だ。僕が求められているのは、ただ見栄えのいい新聞を作ることではない。既存の読者はそのままキープし、新しい読者を開拓する紙面をつくること。そして、リーダビリティをあげ、一面から最終頁までの流れを、ロジカルで美しくメリハリのあるものにすること。そのために必要なストーリーの方向性やストラテジーをアドバイスすることもまた、僕の仕事のひとつだ」。つまり彼は、「新聞コンサルタント」でもあるのだ。

最も重視したのは、「折衷主義」というデザインスタイル

HET PAROOLのデザインの特徴は?

それはずばりエクレクティック。「折衷主義」だ。

「この街に相応しい新聞とは何か?と考えた末、アムステルダムという街が持つ、=自由でオープンマインド、クリエイティブ、アーティスティックと言ったイメージを反映したもの=というコンセプトに行き着いた。そしてそれを体現するスタイル面では、オランダの芸術家モンドリアンの作風からインスピレーションを得た画面分割や色使いを採用した」。その紙面を見ると、モンドリアン調のリズミカルでモダンなテイストの中で、ヘビーフォントのロゴが対照的な古典的趣を醸し出していることがわかる。その結果、全体としては斬新さを感じさせる一方で、ロゴが昔ながらの新聞を彷彿とさせる。こんな絶妙なコントラストとバランス感を生み出しているのが、彼が狙った折衷主義だ。

少し余談になるが、ロゴデザインを担当したスペインのデザイナーLaura Meseguerは自分のサイトの中で、このデザインのコンセプトは「基本に立ち返ること」、このロゴがTiempos Headline BlackとQuarto Blackという2つのスタイルを折衷したフォントデザインであることを説明している。そのひとつのQuartoは、なんと1570年代初頭にフランダース地方でデザインされ、以後「オランダ的なテイスト」として広く愛用されていたフォントだそうだ。

ウツコさんは、紙面に「余白を残す」ことも重要なルールのひとつとした。「適度な余白があると紙面は風通しがよく見え、結果としてオープンで自由、そして現代的という印象を生み出す」と言うのだ。彼が考えるアムステルダムらしさは、こんな形でも体現されていた。

 

 

21世紀の紙の新聞があるべき姿とは?

21世紀の紙の新聞があるべき姿とは何か?ウツコさんは、そんな問いかけを繰り返していると言う。「しかしその前に、紙の新聞は存続すべきかと考えてみる必要があるんだけど・・」と苦笑。究極のそもそも論だ。

その答えはまだわからないまま、彼は模索を続けていると言う。「だがひとつ明かなのは、紙の存続を考えるなら、デジタル版との明確な区別化が必要だということ。掲載する情報の区別化は勿論だが、見た目や、情報を読む”体験”にもそれは必要。デジタルは技術を駆使して新しい体験を生み出している。だからこそ紙の新聞には、古典的なタッチを残すべきだと考えている」。

多くの新聞の読者は、50歳以上の人たちが主流(60歳以上という見方も・・)で、若い読者の獲得は各新聞社にとって大きなターゲットのひとつ。だがこの時に、「若者はモダンなものが好き」と決めつけてかかってはいけない。「彼らは思いの外古典的なものも好んでいる。だから紙でもデジタルでも、若者向けだからといって、むやみに目新しいガジェット的なトリックを導入してはいけない」と、無策に若者にこびる姿勢にも一石を投じる。

ところで、世界各国の新聞をデザインしていて、何か気づいたことはあるかと尋ねてみると、「オランダ人がとても新聞好きってこと!」という、なんだか嬉しくなるような答えが返ってきた。「あと、とても頑固で会議好き(笑)。各問題をじっくりと検証して、着実に歩んでいく感じ。その時々に皆が次々と問題点をあげてくるので”なかなか進まない・・・”と思うこともあるが(苦笑)、その反面非常にクリアでわかりやすい。その逆がアメリカ。ブリーフィングの時はスムーズだが、後になって多くの問題が浮上してくる」。なるほど・・と納得できる裏話。そして、「オランダやドイツを始めとする北ヨーロッパや北欧では新聞媒体はかなり元気。アメリカや東欧ではより厳しい状況」という傾向もあるそうだ。だが、全体として、「厳しい状況の中でも、紙の新聞は明かに進化している。まだまだ存続は可能だ(笑)」とウツコさんは前向きだ。

最後に、Het Paroolのことをもう少し紹介すると、創立は1940年。ドイツ占領下で、レジスタンス新聞としてスタートした。2004年にタブロイド判に変身。アムステルダムの地方紙ではあるが、「アムステルダムのニュースが多い全国紙」という位置づけが浸透している。Paroolという言葉には、「暗号」や「モットー」という意味がある。

(写真はJacek Utkoさん。スキポール空港にて)
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(新聞の画像は全て、Jacek Utkoさんに提供していただきました)