安楽死クリニック、活動開始 (from update NL)

世界に先駆けて安楽死を合法化したオランダで、3月1日、世界初となる安楽死クリニックが活動を開始する。

安楽死の執行は医師の「義務」ではないことから、安楽死法で定められた条件をクリアした患者でも、必ず安楽死できるとは限らない。
年間約1万件の「依頼」があり、このうち実際に安楽死を施してもらえるのは全体の三分の一。宗教的な理念などさまざまな理由から、安楽死執行を拒否する医師は多い。
そんな現状を受けてNVVE(オランダ安楽死協会)が行った調査の結果を見ると、重い持病を持つ人、重症の精神疾患で生きることが耐えがたく苦痛である人、アルツハイマーの症状が現れた人など、不治の病を抱えながらも余命の短さを特定できない患者には、安楽死が施されないケースが多いことがわかった。
そんな状況の中にある相当数の人々が、勇敢な家族の力を借りて、あるいは電車に飛び込むなど無関係な他人を巻き込む形で、または遺族にとって非常に辛い方法で自殺を遂げているという。このような人々のために、尊厳死を実現する方法を模索した末生まれたのが、安楽死クリニックだ。

安楽死クリニック、活動開始

精神病院の個室で自殺した娘を持つ老婦人は、「娘は、カギをかけた病室で、ビニール袋を頭からかぶって首をベルトでしばり、ぬいぐるみを抱きかかえて自殺しました。もう彼女が生き続けていくことはできないだろうことは、誰の目から見ても明かでした。もしあのときに安楽死クリニックがあれば、娘をあんな寂しい方法で死なせずにすんだはず。家族に囲まれて、人間として尊厳のある死を遂げられたと思います」という。著名な脳神経科医は、「受精して、誕生するという人間の存在を決定する段階で、私たちは自分の意志を反映する術を持たない。それが死に際してまでも続くことがないように、私は自分の脳のボスでありたい」と言って、このクリニックを支持している。

一方、このクリニックに異議を唱える医師団体も多い。その理由は、「正しいプロセスを踏めば、患者とつきあいが長く信頼関係を持つホームドクターたちが安楽死を行うことができる。医師として一つの治療法(安楽死)にフォーカスせず、他の可能性を探り続けるのは重要」などだ。
同時に、いざという時点になって、自分のホームドクターが安楽死を行わない主義であることを知り戸惑うことのないように、安楽死を視野に入れている人は、ホームドクターを選ぶ段階で確認しておくことが重要だとアドバイスしている。

このクリニックでは、オランダが法で定める安楽死法に則ってプロセスが進む。
申し込みができるのは、オランダに居住し、オランダの健康保険に加入している人。
この条件を満たす外国人は、医師団と十分なコミュニケートをとれる語学力があることも条件だ。
厳しい医療諸条件をクリアし、長いプロセスを経て死以外の方法はないことが安楽死法に則って承認されると、3日間かけて安楽死の準備をすると言う。
精神科医、ソーシャルワーカーなど、必要なサポートを受けることができる。当面は、スタッフが患者宅に出向く形をとる様子だ。
同クリニックでは、年間約1000人の申し込みを予想している。

オランダ人気質が生み出すもの

「世界は神が創造したが、オランダはオランダ人が創造した」という有名な言葉が表すオランダ人気質。
それは、妊娠中絶法によって女性に社会的解放をもたらし、安楽死法によって究極の人権をもたらしたが、運命任せであるはずの「命」のあり方に政治(あるいは人間)がここまで介入するべきかという論争は今でも続いている。
「全ては神の思し召し」という宗教的ドグマが、人を幸せにするとは限らないことは誰もが知っていても、それに逆らう制度をつくるとなるとタブーを打ち破る強靱なパワーが必要だ。
オランダ的な究極の実利主義は、真の公的実利のためなら労力と困難を惜しまない。その上、そうすることが、結果的に個人や共同体の満足度に繋がると信じている。
隣国ベルギーの人々からは「自信過剰」と言われるオランダ人気質だが、それがこの国の革新性を支えているのは事実だ。